『戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊』モリ―・グプティル・マニング[著]松尾恭子[訳]創元ライブラリ
本の大まかな内容
ナチス・ドイツは、1933年から、“非ドイツ的”な書籍を消滅するため、焚書(書籍を焼き捨てること)を実行。ドイツ国内の図書館や個人の所蔵、さらに、ナチスに征服されたヨーロッパの国々からも、書籍が奪われ、燃やされた。その数、1億冊以上。
対するアメリカは、寄付活動や兵士用のペーパーバック「兵隊文庫」を発行し、厳しい状況で戦い続ける兵士たちに無料で本を届け続けた。その数、1億4千万冊。焼かれた本を上回った。
その史上最大の図書作戦とはどんなものだったのかを、丹念に書きつづった感動のノンフィクション。

本の表紙の写真に魅了される
本書の表紙👆、戦場で夢中になって本を読んでいる兵士の写真を見ただけで、心つかまれてしまいました!
『戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊』は、第二次世界大戦時に、ヨーロッパでは大量の本が燃やされていたこと、それに対してアメリカは本を兵士たちに送り続けていたこと、そんな、逆のことが行われていた実態を、戦争の悲惨さとともに書かれた本です。
読んでみて、驚きの連続でした。ナチス・ドイツがやってきたこと、兵士たちの過酷な状況……想像を絶するものばかりでした。
それが、日常の中にあたりまえにある本を通して語られるので、昔の、遠く離れた国のことではなく、より身近の、自分ごととして感じられました。

本書には、広場で本が燃やされている写真も載っています📸
罪のない本が、勝手に悪いものとされ、有無も言わさず焼かれてしまうというのは、本が好きな自分としては、心が焼かれてしまうようなつらさを感じました。
そして、戦争の恐ろしさ、愚かさ、悲惨さを、よりダイレクトに受け取ることができました。
アメリカには通じなかったプロパガンダ

ヒトラーが、ヨーロッパの国々の侵略を成功させてきた作戦として、ラジオや新聞を用いた、心理戦があったのだそうです👇
新聞社を買収し、ドイツ軍が優勢だという偽記事を書かせて、フランス国民に恐怖心を植え付ける
➡ ドイツ軍が侵攻をほのめかすだけで、あきらめムードがはびこるようになる
➡ 実際に侵攻すると、6週間でフランスは降伏
※ポーランド、フィンランド、デンマーク、ノルウェー、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクも1年のうちに打ち負かした

人の気持ちというものがいかに大事か、ということを、ヒトラーは知っていたんですね…
ヒトラーは本をたくさん読んでいたということなので、きっと本から学んだのですね…
本の力を知っていたからこそ、自分の思想と違う本を焼かせたのですね…
ヒトラーは次に、アメリカにも同じ心理戦を仕掛けてきました。がしかし、アメリカの報道機関は、それを易々と暴いてしまいました!すごい!
それだけでなく、対抗するために、いくつかの組織が立ち上がりました。その組織のひとつが、アメリカ図書館協会でした。
図書館員たちは、書籍が燃やされる光景を見たくなかったのです。
一九四〇年の終りから一九四一年の初めにかけて、アメリカの図書館員は、ドイツによる目に見えない攻撃からアメリカの思想を守る方法について話し合った。ヨーロッパにおける“書物大虐殺”は、彼らの神経を逆撫でするものだった。そして議論の末、“思想戦における最強の武器と防具は本である”という結論に達した。
『戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊』モリ―・グプティル・マニング[著]松尾恭子[訳]創元ライブラリ 45ページ
ここをきっかけに、図書館員たちが尽力し、国民に本の寄付を求め、アメリカ軍の兵士に送りました。
そして、そのあと、ライバル同士の出版社が協力しあい、持ち運びに便利なペーパーバックの兵隊文庫を作り、無料で兵士たちに送りました。
本は、想像を絶するような過酷な状況にいる兵士たちにとって、現実から逃れ、不安をやわらげ、退屈をまぎらわし、笑い、刺激を受け、希望を持つための、最強ツールとなっていました。

今までまったく本を読んでこなかった兵士も、兵隊文庫は夢中になって読んだのだそうです📖✨
図書館員たちのがんばり、出版社がどのように協力したのか、本はどのように兵士たちに渡ったのか、兵士たちはどんな風に読んだのか、などなど、本書にはくわしく書かれています!
でも「兵士たちにとっての本」という役割は、現代社会にも当てはまるのでは?と思いました。
兵士に比べたら、超快適な状況にいるとはいえ、精神的には過酷だという方は、たくさんいます。
そんなとき、本が、現実から逃れ、不安をやわらげ、退屈をまぎらわし、笑い、刺激を受け、希望を持つための、最強ツールになるかもしれません📚✨
思想は誰にも奪えない

ナチスは、“非ドイツ”的な本を指定し、燃やすべき書籍のリストを公表していました。その中にヘレン・ケラーの名前も入っていました。
ヘレン・ケラーは、焚書を行っていたドイツの学生団体に、こんな手紙を送っています。
「もしも思想を抹殺できると思っているなら、あなたたちは歴史から何も学んでいません。これまで、暴君たちが幾度となく思想を弾圧しましたが、思想は力を盛り返し、暴君らを破滅に追い込みました」
「あなたたちは私の本やヨーロッパの偉人たちの本を燃やしますが、その中に記されている思想は、これからもあまたの経路を通じて人々に浸透し、力を与え続けるのです」
『戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊』モリ―・グプティル・マニング[著]松尾恭子[訳]創元ライブラリ 32ページ
「物理的なものは奪えても、心の中の宝物は誰にも奪えない」ということを、このヘレン・ケラーの言葉に教えてもらいました。
この言葉も、宝物として心に刻もうとと思います。
おわりに
以上が、『戦地の図書館』のブックレビューでした。
戦争もののは、なかなか「読もう」という気になれない、ハードルの高いジャンルなのですが、本書のような、“本”をメインにした戦争ものなら、「読みたい!」というテンションが湧きあがりました。本当に読んでよかったです!
本を愛しているすべての人におすすめしたい本です!!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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